印紙税の基本的な考え方については、前回申し上げましたとおり、契約書・領収書等を作成し、交付する場合、つまり書面作成の都度課税されるのが印紙税です。
印紙税は、税法の中でも特に難解な部分が多いほか、契約書等の文言の記載によって、印紙税額が異なるケースがございます。今回は、同じ契約書の内容でも、印紙税額が異なるケースについて紹介していきます。
例えば、不動産賃貸会社甲が、不動産管理会社乙に対し、甲所有のAビルの清掃業務委託契約を委託した場合のケースをご紹介します。
パターン①
清掃業務契約書
甲は乙に対し、甲所有のAビルの清掃業務を委託し、乙は本業務を受託するものとする。
清掃業務月額 金600,000円(税抜)
契約期間 令和5年4月1日から令和6年3月31日までとする。
委託者(発注者) 甲
受託者(受注者) 乙
パターン②
清掃業務契約書
甲は乙に対し、甲所有のAビルの清掃業務を委託し、乙は本業務を受託するものとする。
清掃業務月額 金600,000円(税抜)
契約期間 令和5年4月1日からとする。
委託者(発注者) 甲
受託者(受注者) 乙
上記契約書①及び②は、いずれも清掃業務の月額金額を定めたものですが、月額×契約月数=請負金額の計算ができるか否かで、印紙税の判断が異なってきます。
覚書に示された料金について
①月額×契約月数=請負金額を計算できる→第2号文書 請負に関する契約書に該当
(金額に応じた印紙税の納付が必要)
仮に本契約書の契約期間について、1年間と定めがある場合は、記載金額が
600,000×12か月=7,200,000円
となり、10,000円の印紙税の納付が必要になります。
②月額のみ記載→第7号文書 継続的取引の基本契約書に該当 となります。
(一律4,000円の印紙税の納付が必要)
上記①のケースの場合は、清掃業務という請負契約を甲乙間で取り交わし、乙の仕事の完成によって甲が乙に対し対価を支払うものですが、契約期間及び月額金額が契約当初に確定しているため、請負金額は7,200,000円と判断されます。
一方②のケースでは、契約開始日と月額のみしか記載がなく、月額600,000円は、契約金額ではなく「月額単価」という位置づけとなり、第7号文書に該当することとなります。
では、上記①と②のケースで、どういったケースが、印紙税の負担軽減をできるかという観点から行きますと
月額416,666円×12か月=4,999,992円→2,000円の印紙税の貼付が必要
月額416,667円×12か月=5,000,004円→10,000円の印紙税の納付が必要
つまり、
年間金額が5,000,000円以下→2,000円以下の印紙税の負担
年間金額が5,000,000円超→10,000円以上の印紙税の負担となるため、上記②のケースの方が印紙税の負担が4,000円となり有利
といった判断になります。
当初契約の自動更新期間中に取り交わす月額金額を変更する契約書の取扱い(上記①関連)
単価を定めた覚書について(上記②関連)
参考リンクを添付しますので、ご確認いただけますと幸いです。
請負について(参考)
「請負」とは、民法第632条《請負》に規定する「請負」のことをいい、当事者の一方(請負者)がある仕事の完成を約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約をいいます。具体的には、家屋の建築、道路の建設、橋りょうの架設、洋服の仕立て、船舶の建造、車両及び機械の製作、機械の修理のような有形なもののほか、シナリオの作成、音楽の演奏、舞台への出演、講演、機械の保守、建物の清掃、警備業務のような無形のものも含まれます。
この「請負」は、完成された仕事の結果を目的とする点に特質があり、仕事が完成されるならば、下請負に出してもよく、その仕事を完成させなければ、債務不履行責任を負うような契約です。
また、請負とは仕事の完成と報酬の支払とが対価関係にあることが必要ですから、仕事の完成の有無にかかわらず報酬が支払われるものは請負契約にはならないものが多く、また、報酬が全く支払われないようなものは請負には該当しません(おおむね委任に該当します。)。
まとめ
印紙税は、契約書の記載方法如何によって、納付税額が変わることがありますが、一方で印紙税の節税に固執した結果、本来の商取引の契約内容が著しく歪曲する結果をもたらします。まずは本来の商取引の契約内容を正しくすることを前提に、印紙税の納税は副次的な内容と位置付けていただければと存じます。その上で、印紙税の税負担を減らすための検討をしていただければと思います。
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