はじめに
事業活動をしていくにあたり、売上や経費から現状の財務状況や経営成績を把握するのは当然のことですが、その他に税金がどの程度発生するのかを把握しておくことも非常に重要となります。
多くの個人事業主は事業を継続、発展させていくために多くの時間を事業活動へ費やしております。
全ての個人事業主が失敗すれば財産の全てを手放す覚悟で事業へ取り組んでいることから、事業で稼いだお金の何割かが税金として支払う必要になるので税金の知識は必要不可欠になります。
税金を少しでも安く済ませる事が出来る節税策として、法人成りというものがあります。
本稿では、この法人成りについて解説していきたいと思います。
法人成りの意義
法人成りとは、個人事業主として事業活動をしてきた人が個人としてではなく、法人を設立し、法人として事業を継続していくことを言います。
最初から法人として事業活動をしている場合、法人成りとは呼ばず、個人事業主として事業活動をしており、売上規模や従業員の増加などを契機に、これまで行ってきた事業を個人事業主としてではなく、法人として継続していくことを法人成りと言います。
現在の日本では、グローバル化やITの発展によって、様々なサービスを受ける事が出来る時代となりました。その反面、他社との差別化を図る為、収益力や効率化を要求される競争社会でもあります。
競争社会の激化により生き残ることが出来ない事業者の倒産が増加しておりますが、平成18年の会社法改正により、法人設立のハードルが一段と低くなったことから法人数が増加しているのも現状です。
従来は法人設立の要件として、株式会社は資本金1,000万円、有限会社は資本金300万円が要件とされていましたが、平成18年改正によって、その要件が撤廃され、資本金1円から法人を設立することが可能となりました。
法人設立の要件が緩和されたことから、法人成りをして節税メリットを享受しようとする個人事業主もいますが、法人成りをすることによるデメリットもありますので、以下では法人成りした場合のメリットとデメリットについて解説していきます。
法人成りのメリット
法人成りのメリットとして下記のような内容が挙げられます。
➀責任範囲が有限責任であること
個人事業主の場合、倒産時の債務弁済にあたり事業主の全財産を処分する無限責任となりますが、法人の場合には、債務弁済については出資した範囲内の責任とされる有限責任となる為、事業規模拡大により負担する額も大きくなる場合にはリスク回避が可能となります。
②社会的信用力が増大
法人の場合、登記が必要となったり一定の法的制約はありますが、登記されることによって公示されることになる為、周りからの取引を行うにあたっての安全性や社会的信用力は高まります。
③事業承継が容易になること
個人事業主は死亡した際に個人名義の預金口座が凍結されるなど、事業に活動を行うにあたって支障が生じます。
しかし、法人の場合には代表者が死亡した際、預金口座が凍結されるといった事はなく、法人の事業活動が停止するといった事態になることはありません。
④給与所得控除による節税が出来る
個人事業主の場合、事業により稼得することが出来た収入から必要経費を控除した差額(以下「所得」と言います。)から納めるべき税額を計算します。
法人の場合、収益から必要経費を差し引いた所得は、代表者個人ではなく、法人に帰属します。法人が代表者へ報酬を支払った際には法人の経費として計上出来、さらに代表者個人では法人から受領した報酬から給与所得控除を差し引いた所得を基に納税額が計算される為、個人事業主に比べて節税面で有利に働きます。
⑤欠損金の繰越が10年間可能
個人事業主の場合、過去の赤字である損失の繰越しは3年間となっております。
一方で法人の場合には、過去の赤字である繰越欠損金を10年間繰り越すことが可能となります。
大きな損失が発生した際に、個人事業主であればその後3年先の期間における利益と相殺出来るのに対して、法人であればその後10年先の期間における利益と相殺できます。
法人は個人事業主に比べて欠損金を繰り越せる期間が長い為、個人事業主に比べて有利となります。
⑥基本的に消費税が設立時から2期連続で免税になる
消費税の納税義務者の要件として、2期前(以下「基準期間」と言います。)の課税売上高が1,000万円以下の場合には消費税の納税義務が免除されます。(以下「免税事業者」と言います。)
そのため、個人事業主から法人成りをした設立1期目と2期目については、基準期間がないことから消費税の納税義務が免除されることになります。
ただし、インボイス制度の導入によって消費税が2期連続で免税となる点については注意点があります。
令和5年10月より導入されるインボイス制度は、免税事業者の場合には適格請求書という新たな請求書を発行することが出来ない為、取引から排除される可能性が高くなります。この適格請求書を発行する為には課税事業者となる必要があるので、適格請求書発行事業者を選択している場合には、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても課税事業者となります。
法人成りのデメリット
法人成りのデメリットは以下5つの内容が挙げられます。
➀社会保険への加入が強制となる
個人事業主であれば、社会保険の加入は従業員数が5名未満であれば任意加入になっております。
しかし、法人の場合には、代表者1名しかいない場合であっても社会保険への加入が義務となる為、社会保険料の支払いが発生してきます。
②赤字でも均等割という税金が発生する
個人事業主の場合には赤字であれば、所得税、住民税、事業税などの税金を納める必要はありません。
しかし、法人の場合には赤字であっても必ず法人住民税均等割が発生してきます。
法人住民税均等割は、資本金の額や従業員数によって税額は異なりますが、最低額として7万円は発生してきます。
③税務調査が多くなる
個人事業主の場合には、法人数と比べて圧倒的に数が多いことや、収入規模も低いことから税務調査に入られる確率はあまり高くはありません。
しかし、法人の場合、個人事業主と比べて法人のほうが数が少ないことや、法人の方が売上規模が大きいことから、個人事業主に比べて法人の場合には圧倒的に税務調査に入られる可能性が高いです。
④登記費用が必要となる。
個人事業主の場合、登記手続きにかかる費用は特に必要ありません。
しかし、法人の場合には設立時に登記費用が必要となり、定款認証、登録免許税、司法書士報酬など合計して20万円以上は必要になってきます。
⑤事務負担の増加
個人事業主の場合には法人と比べて会計処理などもそこまで細かく厳密な処理は求められておりませんが、法人の場合には厳密な処理が求められることや、株主総会や取締役会の開催、社会保険業務や登記関係などの手続きも頻繁に発生する為、個人事業主に比べて事務負担が格段と増加します。
さいごに
法人化するメリットとしては節税対策で法人成りをすることが最も大きな要因かと思います。
理由としては税率の違いが大きいと考えられます。個人事業主の場合には所得税を納税し、法人の場合には法人税を納税することになります。
所得税率は所得が多くなればなるほど税率が高くなる累進税率を採用しているのに対して、法人税の場合、法人税率は一定の税率となっております。
そのため、個人事業主の方へ節税対策としてある程度の所得を超えた場合には法人成りをおすすめしております。
最近ではフリーランスにより活躍している人が非常に増えてきているので、ある程度収入が増加してきた場合には、税理士へ相談することをおすすめします。
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