はじめに
今回は、令和5年度税制改正大綱の法人に関する改正について解説します。
令和5年度税制改正の基本的な考え方として、成長と分配の好循環の連鎖がテーマとされ、日本経済活性化に向け、十分に活用されていない企業の内部留保を引き出すための内容となっております。
具体的には法人税の増税が求められる一方で、企業の生産性を向上させる源泉と考えられる、研究開発設備、投資など、企業の成長を支援するための各種減税制度の見直しが実施されます。
さらに、企業において対応が迫られているインボイス制度や電子帳簿保存法の一部負担軽減や要件の緩和、行き過ぎた国際的法人税率引き下げ競争を是正するための国際課税の整備が行われております。
法人税の改正内容
◆防衛費財源確保のための税制措置
法人税、所得税、たばこ税について増税がきまりました。
増税の目的としては、令和9年度までに防衛費を約1兆円強確保するためです。
増税の実施時期としては、令和6年以降適切な時期と明記されております。
法人税増税の内容として、課税標準である法人税額から500万円を控除した額に4%〜4.5%の税率を乗じた金額が増税額となります。
しかし、法人税額から500万円を控除後の課税所得が2,400円以下の中小法人については、税負担は増加しない仕組みとなっており、この点については中小企業の税負担が配慮されています。
◆オープンイノベーション税制
オープンイノベーション税制とは、事業会社がスタートアップ企業に対して、一定要件を満たす出資をした場合、投資額の25%相当額が所得控除や損金算入できる制度をいいます。
具体的には、株式取得後3年以内に配当を受け取るなどの一定事由に該当した場合には、益金算入すべきですが、3年超株式を保有している場合には、益金算入をする必要はなく、損金算入が認められる制度です。
今回の改正では、新規発行の出資を対象とする既存制度を継続し、新たに既存発行株式の購入をした場合についてもオープンイノベーション税制の対象とする事となりました。
株式の購入を本制度の対象にした事で、スタートアップ企業を対象としたM&Aの増加が期待される改正内容となっています。
買い手企業の資金や人材等の経営資源が、スタートアップ企業によって活用されることで、経済成長が見込まれる事も改正背景にあると考えられます。
また、株式購入した場合、投資額の25%を所得控除とすることが可能となります。
一方、既存制度と異なる点は株式取得後の取り扱いになります。
原則は、株式購入をして5年経過後に益金算入が必要となりますが、株式購入をしてから5年以内に一定割合の売り上げが増加した場合には益金算入されず、課税の繰延が継続されます。
ただし、6年目以降も配当を受け取るなど一定の事由に該当した場合には、益金算入が必要とされ、既存制度のように、一定期間経過後は永久損金が認められるという制度ではない点に注意が必要です。
◆研究開発税制
研究開発税制とは、法人が研究開発投資を行った場合に試験研究費の額に一定の控除率を乗じて計算した金額が控除できる制度になります。
ただし、法人税額に一定の控除上限率を乗じて計算した金額が限度額とされておりますので、次の①または②の算式のいずれか少ない金額が控除額となります。
①試験研究費×控除率
②法人税額×控除上限率
研究開発税制は、一般型とオープンイノベーション型の2つ分かれており、一般型には上乗せ措置としてコロナ特例が設けられ、それぞれ控除率と控除上限率が設定されております。
今回の改正により、オープンイノベーション型の対象となる特別試験研究費の範囲が拡大され、博士号取得者、他社での研究業務経験者などの高度研究人材を雇用した場合の人件費も特別試験研究費として含まれることとなりました。
一般型に関する改正としては、コロナ特例について廃止されることとなりました。
コロナ特例の廃止により、控除上限額が法人税額の最大50%だったのに対して、45%に縮小される事になりました。
改正の概要として、大企業は前年と比較して試験研究費が増減した際に、改正前と比べて控除税額の増減額を大きくすることで、試験研究費を増加するきっかけを持たせる改正であると考えられます。
中小企業は、控除率の上限、下限の変更はありませんが、一定の試験研究費の増加割合の場合、控除率が減少し、増税になる改正内容になっております。
最後に、一般型の控除上限率についても改正が行われ、試験研究費の増減に応じ、控除上限率が変動する取り扱いが導入される事となります。
◆中小企業税制等
成長と分配の好循環をテーマにしていることから、地域経済の中核を担う中小企業の生産性向上、経営基盤強化が重要と考えられています。
そのため、期限切れを迎える中小企業税制について一部見直しを行い、2年延長する事となりました。
まず軽減税率について、資本金1億円以下の中小法人の所得金額が800万円以下である場合の法人税率は、原則として19%ですが軽減税率の特例により15%とされています。
この軽減税率を2年延長し、令和7年3月末までの間に開始する事業年度に軽減税率が適用できる改正となっています。
◆中小企業向け設備投資促進税制の見直し及び延長
中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制については、いずれも青色申告書を提出する中小企業者等を対象としており、一定の設備投資を行った場合には、特別償却もしくは税額控除を選択することができ、税制面から設備投資を後押しする制度となっております。
こちらも適用期限を延長することとなります。
しかし、今回の改正で対象となる設備を一部縮小する事になりました。
具体的には、コインランドリーや暗号資産マイニング業用の資産で管理の大部分を他社に委託する資産が除外されます。
◆先端設備等導入計画に基づく固定資産税減免制度の見直し
固定資産税の減免制度について、減免割合を最大100%から最大50%に縮小し、適用要件の追加、対象資産の縮小を行った上で2年延長され、令和7年3月末までの取得資産について適用される改正となります。
◆地域未来投資促進税制の見直し及び延長
大企業を対象とした地域未来投資促進税制について、こちらも上述した中小企業向けの投資税制と同様に、一定の見直しを行った上で2年間延長されることが決まりました。
さいごに
今回の法人税に関する改正内容として、大きなインパクトを受けたのは、防衛費財源確保のための税制措置
として、法人税、所得税、たばこ税について増税となる事が強く印象を受けました。
他にも令和5年10月から導入されるインボイス制度の改正や、ニーサの拡充、生前贈与加算が3年から7年に変更などもありますので、ご興味ある方はお問合せください。
コメント